相続税の調査は会社の調査とはまったく違います。
vol.1
個人事業をしていれば税務署の調査は何度か経験します。日本の税務調査は、おかしいものだけを抽出する米国型ではなく、もちろんそれもやりますが納税者を極力訪問し可能な限り接触を持ち、基本的なことができているかの確認をする日本独自型です。事業の中身の確認ですからほとんどが事業に関する調査です。
会社の場合は個人はあまり関係ありません。しかし、銀行からお金を借りないで個人のお金でやりくりする会社の場合、そのやりくりのお金がどこから出ているのかを問います。給料が入っている個人通帳やそこからの定期預金を解約または満期のものであれば全く問題ありません。
個人事業の場合も、通帳の入金欄にあるものが申告されている売上か、確定申告後に貯めた定期預金の解約かどうかを問うので、申告していない売上の入金から還流していないかどうかを確認するケースはあります。
それら以外に、銀行で個人口座を調べ個人入金を詮索することはあまりありません。
しかし、相続税の調査は、基本的に故人の銀行口座、家族(子供、孫を含む)全員の銀行口座まで必ず銀行で職権により確認します。故人の相続財産の全体を特定化するためです。この特定をするために、家族中の財産をほじくり返していくのが税務調査、相続税調査です。個人の財産権に立ちってきますので不愉快なことがたくさんあります。
あなたの今日時点での財産はいくら?
vol.2
今日この時点であなたの財産はいくらありますか?と問われたらどう答えますか?
銀行に普通預金がいくら、定期預金がいくら、そして住宅ローンで買ったこの土地と家、土地は税務署発表の路線価で1u○×円だから総額○○×円、家は市役所からの固定資産税の通知書に記載してある評価額でいくら、株式は銘柄の今日の終値、そして車。これらを積み上げて私の財産は合計○○×○円です。
こんなに単純に計算できるケースは実は稀です。自分の名義として登録されている財産は簡単にわかりますが、そもそも財産というのは自分の名義だけでしょうか。奥さんや子供さんの名前で契約しているものはありませんか。ご自分の普通預金の引き落としを見てください。ご自分の口座の引き落としでもご自分の名義でないものがありませんか。たとえば生命保険の引落としはどうですか。奥さんの名前やお子さんの名前になっているものはありませんか。契約者がご自分ではないものがありませんか。
将来子供のことは心配ですよね。子供の将来の為に子供名義の学資保険、子供名義の預貯金は準備していませんか。秘密にしたい預金はありませんか。または奥さんの名前で積み立ててあげている預貯金はありませんか。
これらを含めてご自分の財産かどうかの検討しなければなりません。財産を固めるのは、実は少し厄介なのです。
本屋さんにある本は相続税対策にあまり役に立たない!
vol.3
本屋さんで販売している相続税の本は、相続税の計算の仕組みを書いた本が一番多いようです。しかし、相続税の申告の仕事は所得税のように納税者自身で申告するケースは少ないので、参考にはなりますが、最終的に専門家にお願いするのであればあまり役に立ちません。こんなに相続税申告は難しいので、専門家たる税理士にお任せくださいという推薦本になっているようです。いざ相続になった後の確定申告までのノウハウ本が多いのです。
専門家が作成する申告書の税務調査なのですから、税務申告のやり方に間違いがあることを指摘するものではありません。提出された確定申告書に記載されている遺産総額が本当ですかという確認をするのが税務調査です。申告を代理した税理士に伝えていない他の財産があるのではありませんかというのが税務調査です。提出された遺産総額自体を疑ってくるのが税務調査なのです。
本屋さんの本は遺産総額自体はすでに決定していることを前提に書いてありますので、将来の相続税納税者予備軍からすると、実はピントが外れている場合が多いと思います。
遺産の総額は誰が決めるの?
vol.4
相続税の税務調査での一番大きな調査項目は、提出された遺産総額が亡くなった人の全体の財産なのかどうかを確認することです。相続税も申告納税制度の中での税制ですので、遺族である相続人自らが遺産総額を決めて確定申告書を提出することになります。相続人自らが決めた遺産総額をさらに確認しようということなのです。
総額を決めるのが相続人ということは、相続人が、亡くなった人の財産がどのくらいあるのかを十分理解していなければならないのです。
このような人がいました。亡くなったその日家族で相続税の話になり、銀行に残高がないように預金をおろしてしまえば税務署にわからないから相続税が安くなるかもしれないと判断し預金をおろして手元に(厳密には銀行の貸金庫)お金を置きました。
残念ながらこの努力は無駄でした。預金口座にあろうが手元にあろうが遺産総額に入れなければならないことを後で知ったのです。
贈与税の確定申告は贈与の証?
vol.5
贈与税の非課税枠は110万円です。毎年111万円贈与すると贈与税は税率10%で1千円になります。「毎年千円づつ贈与税を払い続けると贈与した証拠ができていくから、毎年贈与税の確定申告をしたほうがいいよ。」という話があります。
本当にそうでしょうか。実際の贈与を毎年おこない、その結果として贈与税申告があるなら当然筋書き通りでしょう。しかし、実際の贈与がない場合であれば、どんなに申告を続けても、贈与税申告のもととなる贈与の事実がないのですから、贈与税の申告は無駄になってしまうでしょう。
また、子供の知らない預金口座を親が作り、その口座に毎年110万円づつ入金していたとしても、当の本人である子供がその事実を知らないならば贈与は成立しないことになります。贈与税の申告書だけでは贈与を立証できないのが残念ですよね。